「稗史七則(はいししちそく)」は、**滝沢馬琴(曲亭馬琴)**が著した文章の中で示した、小説(稗史)を書く上での自らの心得・方針を七つにまとめたものです。これは馬琴の文学観や、戯作に対する真剣な姿勢を表すもので、彼の代表作『南総里見八犬伝』などの制作姿勢にも通じています。
🌾 稗史(はいし)とは?
「稗史」とは、もともと「正史(政府公認の歴史書)」に対する言葉で、庶民の歴史や逸話、伝奇などを記したものを指します。転じて、小説や物語全般の意味でも使われるようになりました。
🧾 馬琴の「稗史七則」一覧とその解説
以下が馬琴自身が示した「稗史七則」の内容と、それぞれの解説です。
① 奇を衒(てら)はず、理に落つるを旨とす
❝奇抜さで目を引くのではなく、理(道理・筋道)にかなうことを重視する❞
- 馬琴は、ただの荒唐無稽な物語ではなく、物語の筋に道理が通っていることを大事にしました。
② 虚を実に托し、荒を雅に化す
❝虚構を現実らしく見せ、荒唐な話も上品に仕立てる❞
- ファンタジーであっても、リアリティや品格を持たせるという文学的工夫を説いています。
③ 人情を失せず、詞を濫(みだ)りにせず
❝人間の感情を大切にし、無駄な言葉は使わない❞
- 感情描写や人物の心の動きを丁寧に扱うこと、簡潔で意味のある文章を志向する姿勢です。
④ 理義を傷(そこな)はず、法度に背かず
❝道徳や倫理に反しないこと。法にも反しないこと❞
- 娯楽作品であっても、読者の善悪の感覚を乱すようなことはしない。教育的な姿勢を持っています。
⑤ 世態に即し、風俗を失せず
❝時代の世相に合っており、風俗・文化を正しく描くこと❞
- リアリティのある時代描写を求め、当時の社会背景・価値観に即した作品を目指していました。
⑥ 事を附会せず、文を姑(しばら)くせず
❝でたらめな話を無理につなげない。文章をいい加減に扱わない❞
- 物語の展開や表現をごまかさず丁寧に作ること。文章力と構成力への強いこだわりです。
⑦ 軽薄を排し、深遠を存す
❝軽いだけの内容は避け、深い意味や価値を込める❞
- 単なる娯楽ではなく、読者に深い感銘や教訓を与える物語を目指すという信念です。
🧠 馬琴の文学観が詰まった七則
この「稗史七則」は、たかが小説、されど小説という馬琴の信念を感じさせます。娯楽としての面白さはもちろん大切にしつつも、教養・道徳・感情・構成のすべてを重視した、極めて高い文学的理念が込められています。
コメント